辞書は道具であり、使いこなすべきものである。辞書の奴隷になっていては、翻訳はできない。翻訳をすぐれたものにするのは容易なことではなく、たとえば、専門分野の翻訳であれば、専門家と翻訳者が訳語の選択について、原文の意味について、くわしく協議しなければならない場合もある。一般読者向けの出版翻訳であれば、編集者や校正者がきびしい批判者になり、相談相手になる。翻訳の全体に対して責任を負うというからには、相談すべき相手に相談し、協議すべき相手と協議しなければならない。自分ひとりで考えて、最善の翻訳ができるとはかぎらないからだ。全体に対して責任を負う立場から、編集者に相談し、その分野の専門家に相談する。これが、翻訳者の基本的な姿勢である。