「嫁入り」という言葉が示すように、昔は結婚によって女性が婚家へもらわれていくのがならわしでした。もともと女性側の実家は男性側から育成のお礼として結納金を受け取っていたのが、後に結婚支度金として使われるようになったのです。国や地域により違いはありますが、桐のたんすや鏡台、布団、着物、日常品などを準備し結婚する時に花嫁に持たせたので「嫁入り道具」と呼ばれています。こうした嫁入り道具の考え方は、女性の実家側か由緒ある家であることを世間に示す意味があり、親の見栄もありました。しかし、結婚した女性は簡単に実家に帰ることも許されず、嫁ぎ先で自由に物を買うこともできなかった時代。大切に育てた娘が肩身の狭い思いをしないように守ってやりたい、できるだけのことをしてやりたいという親心も根底にあったと思われます。嫁入り道具をひときわ豪華にあつらえる地域として特に有名なのが名古屋です。今ではだいぶ少なくなりましたが、嫁入り道具としてベッドやソファセット、家電製品、果ては車まで用意し、トラック1〜2台に積み込んで紅白のリボンをかけ、中身がわかるように見せながら結納の日にご近所にお披露目する家もあるといいます。しかし、名古屋の風習を過剰なものとして誤解し批判するのは早計です。名古屋の人にとっては、親から娘に財産を分与するという意味合いもあるのです。さらに安物を買って何度も買い替えるよりは、一生使えるよいものを持たせたほうが結果的に嫁ぎ先にも迷惑をかけず、経済的だと考える現実主義と合理主義を尊ぶ気質があるのです。今は昔と違い、都会では結納をしないカップルも多く、結婚後も働く女性も増えていますから、昔風の嫁入り道具をわざわざ準備するご家庭は少ないのではないでしょうか。現在では、母親からの嫁入り道具としては、冠婚葬祭に必須の真珠のネックレスや実家の家紋入りの着物など、身につけるものを贈ることも多いようです。道具の中身は変わっても、娘を送り出す親が願うことは、いつだって娘の末永い幸せなのです。